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三通の手紙

1 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/23(金) 01:31:12
 ここじゃない板で「三通の手紙」を書いていたのですが、「作家になることすら
諦めたワナビのオナニーだったんだね。」と言われ、あーなんか板が違うのかな、
と思い、色々見て回った結果、ここにたどり着きました。

2 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/23(金) 01:32:12
 やっぱり、あと三通の手紙があれば、ぼくたちはむすばれたのだろうか

3 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/23(金) 01:34:15
Vol.1
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 桜並木の下を通う事を夢見た現役受験生。その体は、部活動をやめてから特に酷くて、
この頃には80kgを簡単に維持していた。小さな頃から培ったものだったから、本人は、
80kgである事による色々な不遇を、感じずにいた。

4 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/23(金) 01:35:22
Vol.2
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 マンガの影響からか、四月に桜並木の下を通う事の出来るその大学へ、どうしても行きた
かった。三日連続で同じ学部の同じ学科を受験した。これもマンガの影響からか、自宅から
行って帰れる距離にある大学なのに、その三日間、ホテル泊り込みでの受験だった。

 ホテルの朝のバイキングはとても魅力的で、「ゲフーッ」とゲップが出るほどまでに、量を
堪能した。到着した試験会場では、眠くてしょうがない状態だった。
 試験は、“落ちた”と確信できる出来だった。この調子では残り二日がまずいと思い、
ホテルのそばの書店で、ペンとノートとエロ本を購入した。

 自宅に電話をし、参考書に載っている数式を読み上げてもらう。しばらくはノートにそれを
書き落としていたのだけれどすぐにやめた。そもそも、それらの数式を使って問題を解く
能力が無かったから。

 残りの二日も、散々たるものだった。

5 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/23(金) 01:36:47
Vol.3
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 でも、三回も受験すれば合格するだろうと思っていた。科目毎に、三回の試験を通して
一番良い点数を採用してくれる受験システムだった。

 結果発表の帰り道、僕の桜並木には桜は咲いていなかった。浪人するなんて思っても
いなかったから、どのような浪人生活を送るかなんて考えていなくて、自動的に、
自宅浪人生となった。

6 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/23(金) 01:37:52
Vol.4
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 とりあえずは、分かりやすそうな参考書を買い集めて、浪人生活が始まった。

 まだ小さなネコとはあまり仲良くなっていなかったけれど、日中寄り添えるぬくもりが僕だけ
だったから、ネコは必然的に、僕の膝の上で寝ていた。
 膝の上で寝られると、しばらくして足がしびれてくる。猫を机の上に乗せる。しばらくすると
猫が膝の上に来る。しばらくして足がしびれて、机の上に乗せる。
 これを数回繰り返すと、僕も猫の心持ちになっていて、猫を連れて畳のある部屋へ行き、
一人と一匹は惰眠をむさぼり始める。

 こんな風に浪人生活の最初は過ぎて行き、僕の体重は増えていった。

7 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/23(金) 01:39:16
Vol.5
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 マンガを買うために、久しぶりに街へ出た。途中、アルバイト募集の貼り紙をしている店を
見かけた。する事も金も無いから、そこでバイトをする事にした。週六日、夕方から閉店までの
シフトだった。

8 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/23(金) 01:40:00
Vol.6
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 ある日、店じまいをしている時、古くからの友人と再会した。その友人については「大学へ
進学したんだろうな」と思っていたのだけれど、聞いたら、彼は社会人になっていた。
車も買ったらしい。

 僕のバイトが終わるのを彼はパチンコ屋で待ち、バイトの後、僕の家のそばで車の中で、
お互いタバコと缶コーヒーだけで何時間も語り合う、そんな日々が始まった。
 僕は、大学へ行って将来こんなにビッグになるんだ、なんて話をしていた。大学へ行けば
そうなれる、と思っていた。

9 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/23(金) 01:41:03
Vol.7
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 そのうち、彼に彼女ができた。パチンコ屋で待っているのは二人になって、車で話をする
のは三人になった。彼は彼女のことがとても好きだった。

 彼が彼女と始まる前、僕は彼に、安定性の高い職業に就くための試験を受ける事を勧めて
いた。試験の話は、二人の「結婚したいかも!?」という話にかき消される事が多くて、そのうち、
その話はしなくなった。

10 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/23(金) 01:41:51
Vol.8
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 バイト先の二歳年上の先輩がとても良い人で、バイトの間もバイトが終わった後も、
たくさんの話をした。
 両親の離婚騒動に嫌気がさして家を飛び出したある日、僕は先輩と話がしたくて、家から
遠い公園にある公衆電話から、先輩に電話をした。なぐさめて欲しかった。

 先輩は、「何でそんな所にいるんだ。家に帰って勉強しろ。」と言った。そう、言ってくれた。

11 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/23(金) 01:43:07
Vol.9
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 先輩に「俺のとっておきの場所へ連れて行ってやる。」と言われ、バイト先のそばの喫茶店へ
連れて行ってもらった。古びた、なんとも言えない雰囲気の喫茶店。
 その喫茶店は僕のとっておきの場所にもなって、その喫茶店がなくなるまで、僕達の
とっておきの場所だった。

 甘くないコーヒーをおいしいと感じるようになったのは、確かこの頃からだった。

12 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/23(金) 01:43:52
Vol.10
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 受験が近くなったから、バイトを辞める事にした。勉強なんてほとんどしていなかった。
でも、たくさん受験をすれば、どこかには合格すると思っていた。

13 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/23(金) 01:44:26
Vol.11
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 いくつかの三流・四流私大を受験した。「合格してもここには通いたくないよな」という大学も
受験した。
 結果、ことごとく、僕の受験番号達を掲示板から発見する事は出来なかったのだけれど、
ある三流大学から補欠合格候補の通知が来た。これを補欠合格だと思っている勢いで、
合格した気になった。

 ゲーム三昧の日々が始まった。確かこの時は、暗い迷宮を冒険するゲームをやっていた。

14 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/23(金) 01:45:08
Vol.12
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 合格でも不合格でも15時から18時の間に必ず連絡をするので待機していてください、という
その日、僕は暗い迷宮の中で電話を待っていた。
 17時を過ぎた頃から、「成績の良い順に連絡するよなぁ」と思いながら冒険をしていた。

 本当に18時ギリギリ、電話が鳴った。「残念ながら・・・」という報告だった。

 電話を切って冒険を続けた。二浪が決定した。

15 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/23(金) 01:45:56
Vol.13
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 「なんか大きくなったわねぇ。」とバイト先の人に迎え入れられ、僕はバイトに復帰した。
根拠は無いけれど「今度こそ合格しますよ。」と言いながら、この年は予備校の単科コースに
通う事にした。

 バイト先に新しく入って来る人は、同じ年や年下の人達だった。大学へ通っていたり、
専門学校へ通ったりしている人達だった。

16 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/23(金) 01:46:33
Vol.14
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 映画を観に行く事が多かった。こだわりなんか無くて、その時上映されている映画を片っ端
から観ていた。最初は字幕の内容重視、二度目は映像重視。一つの映画で必ず、連続で
二回観た。

 そして、バイト先のそばのヨシギュウで特盛を食べて、バイトへ行っていた。どんな映画を
観ていたのか、全く覚えていない。

17 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/23(金) 11:00:35
Vol.15
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 唄う事が好きで、一人でカラオケへ行く事が多かった。その時に気に入っている曲を何度も
何度も唄う。この頃の一日のフルコースは、「映画×2、ヨシギュウ、カラオケ×数時間、
喫茶店、ヨシギュウ、バイト」だった。

18 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/23(金) 11:01:23
Vol.16
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 ある時、いつものように一人で唄っていたら、入り口のドアをノックする音が聞こえた。
開けるとかわいい女の子が立っている。ズカズカ入ってきて、

「さっきから聞いてました。うまいですね。」
「いやぁ、ありがとうございます。」
「一緒に唄っていいですか?」
「えっ、いいっすよ。」

 彼女が誰かの歌を唄い始める。僕は手拍子をしながら「うわぁ、このまま?このまま!?」
なんて考えていたら、今度はノック無しにドアが開いて、僕とは全く逆のタイプの男が入ってきた。

「なんでこんな所で唄ってるんだよ。」
「なによ。」

 しばし、僕の目の前で言い合いをした後、彼は黙って軽くお辞儀をして、彼女はこちらを
振り返る事無く、二人は出て行った。

 部屋には唄われない曲が流れていて、その曲がとまった後、僕はさっきと同じ曲の
ナンバーを入力した。

19 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/23(金) 15:43:29
Vol.17
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 映画やカラオケへ行かない日は、予備校の自習室で勉強をした。予備校の単科は数回
出席しただけだった。

 自習室もそのうち行かなくなって、バイト先のそばのファーストフードで勉強するように
なった。喫茶店で勉強する事も多かった。

 この頃のフルコースは、「ファーストフードで勉強、喫茶店で勉強、ヨシギュウ、バイト」だった。
もちろん、映画やカラオケへ行かない日。

20 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/23(金) 15:44:18
Vol.18
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 成人式は浪人生で迎えた。唯一持っていたダブルのスーツのズボンは、とてもきつかった。
例の友達と会場へ行った。それなりに顔見知りに会う。成人式を迎えた浪人生なんて、
僕以外にもたくさんいるのだろうに、その中で浪人生だったのは、僕だけだった。

 皆で飲みに行こうって話になったけど、僕は行かなかった。恐らく、話が合わないから。

 受験が近づき、バイトを辞めた。「もう戻ってきません。」という言葉を残して。

21 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/23(金) 15:44:57
Vol.19
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 いくつかの三流・四流私大を受験した。「合格してもここには通いたくないよな」という大学に
合格した。嬉しかった。バイト先と喫茶店のマスターに報告をした。たくさんの「おめでとう。」の
言葉をもらった。

 ゲーム三昧の日々が始まった。

22 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/23(金) 15:49:01
Vol.20
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 去年、補欠合格候補で落ちた大学から、補欠合格の通知が来た。通いたくない大学の
入学金と前期分の学費は納入していたけれど、補欠合格の大学へ行く事にした。

23 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/23(金) 15:49:51
Vol.21
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 受験した校舎がある東京へ僕は通うつもりだったのに、僕が合格した学部は違う県に
あるらしい。急遽部屋を探して契約して、引越費用等を稼ぐために、集配物の夜間仕分の
バイトをしばらくやった。

 クールな集配物は数が少なく空き時間が多くて、いつも取り合いだった。空き時間は何を
しているのかと言うと、ベンチや床に横になって寝ている人が多かったから、僕もそれに倣った。

 一斉に休む休憩時間の休憩室の上半分は、タバコの煙で真っ白だった。自動販売機で
100円で買えるパンを頬張るよく見かけるおじさんに、「いいもん食ってんなー。」と、
別のよくみかけるおじさんが声をかける。そんなやり取りを見ながら僕も、部屋の上半分を
真っ白にする事に一役買っていた。

24 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/23(金) 15:53:52
Vol.22
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 部屋を借りた街は、日本人よりも外国人が多いような街だった。そういえば、部屋の下見の
ために初めてその街に降り立ったとき、最初に見かけたのは中東系の人だった。

 バイト先と喫茶店のマスターに事情を簡単に説明して、僕の一人暮らしは始まった。

25 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/23(金) 16:25:59
Vol.23
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 理系の学科に進学したのだけれど元々数学は苦手で、隔週で行われる実験にも全く興味が
わかなかった。ただ、情報処理関係の講義は面白いと感じた。徐々に知り合いができて、
校内でも校外でも一緒にいる仲間ができた。

 当時、仲間内での勉強上の僕の役割は、実験の時、オシロスコープに表示される波形を
方眼紙に写し取るプロッターとしてだった。面倒くさくて誰もやりたがらないから、結構重宝
がられた。僕としては、その波形を出してくれる友人の方が重宝だったのだけれど。

 女の子がいたって僕は蚊帳の外だけど、男ばかりの学校だった。あっ、希少種だからという
理由だけでもてはやされる女の子はいた。彼女達は今、どのような境遇にいるのだろう。

26 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/23(金) 16:26:36
Vol.24
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 奨学金の申請をしながらバイトを探して、ご夫婦でやっている、小さなイタリア料理屋で
バイトを始めた。そばにある医大の学生が、そばにある女子大の学生を数人連れて車で
乗り付けて、

「何でも好きなもの頼みなよ。」
「え〜いいの?安くないよ?」

なんて会話が繰り広げられる店だった。

 わざと入れたスープスパゲッティの中の指は、とても我慢できる熱さじゃなくて、
「あっちぃ!」と言いながらそれを床にぶちまけてしまった事がある。恐らく自分よりも年下の
彼と彼女達から浴びせられた視線は、今も忘れられない。

27 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/23(金) 16:27:07
Vol.25
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 バイト先のみなさんは、ご夫婦を含めて、とてもきさくな人達だった。僕の誕生日にバイト先の
ある女性が、みんなで買ったというガラスのテーブルを届けてくれた事がある。

 玄関先でテーブルを受け取りながら思わず、

「ありがとうございます。好きです。」

と言った。

「誕生日おめでとう。聞かなかった事にしておくよ。」

 大学が忙しくて、ある夜、店の掃除が終わって部屋へ帰り、辞表を書いて、店の玄関の
下から中へ入れておいた。決して、その告白が原因で辞めたわけじゃない。

28 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/24(土) 01:11:50
Vol.26
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 一人暮らしと言っても実は、週末は実家へ帰っていた。金曜日の講義が終わったら実家へ
帰り、月曜日に実家から大学へ向かう。

 夏休み、実家へ帰り、久しぶりに以前のバイト先に顔を出した。ちょうど棚卸をするという
事で、二日間、臨時のバイトをした。この時「週末帰って来ているならバイトすれば?」と
言われた。金も無いし週末何をしているわけでもないし、という事で、土日のシフトで入るように
なった。

29 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/24(土) 01:12:23
Vol.27
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 土日はそれぞれ、開店から閉店までフルに入っていた。夜の部のバイトでは僕は最年長で、
過去に足かけ二年間やっていたバイトだし、結構頼られた。居心地が良かった。

 夜のバイトの人達とはたびたび、飲んだり、カラオケへ行ったりするようになった。週末が
楽しくなった。

30 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/24(土) 01:13:09
Vol.28
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 大学生活はと言えば、何か特別な事があるわけでもなく、大学で時間を潰して、夜は友達の
家でモモデンやストツーといったゲーム三昧。奨学金なんかゲーム代や飲み代に消えて
しまうから、友達のおばあちゃんにご飯をせびったり、友達特製のキムチチャーハンをご馳走に
なったりしていた。

31 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/24(土) 01:13:42
Vol.29
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 お金に余裕がある時のこの頃の食生活は、大学のバスを待ちながら朝マック、大学へ
着いて一限が始まる前にカップやきそば(1.5倍)とイチゴミルク(250ml)、昼は学食の
ハンバーグ定食大盛、夜はコンビニ弁当を二つ、だった。食費が無くなると、友達の家で
ゲームをした。

 体重は、維持されるどころか、着実に増えて行った。

32 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/24(土) 01:14:50
Vol.30
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 一人暮らしの街で、ビデオ屋でバイトをした。主に、返却されたビデオを棚に戻す作業を
していたのだけれど、ジャンルの場所であったりとか、そういった基本的な事の覚えが悪く、
「おめぇ、どんだけ時間かけて棚戻しやってるんだ。延滞料取るぞこのやろう!」と、いつも
怒鳴られていた。

 一ヶ月程で辞めた。というかバックレた。部屋のそばのビデオ屋だったから、通学ルートを
変えなければならないのが痛手だった。

33 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/24(土) 01:15:57
Vol.31
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 一人暮らしの街で、深夜のコンビニエンスストアのバイトをした。夜はお客さんが少なくて、
品出しをしている以外は、実験のレポートを書いていた。
朝になって寝ないで大学へ行ってこのレポートを提出し、その日、次の実験を行う、という具合だった。

 お菓子を運んでくるお兄ちゃんは無口な人なんだけれど、何度か会っているうちに、
何となく暗黙的に、お互い仲良くなっていた。

お兄ちゃんは、僕が受領印を押し終わると、いつも同じ缶コーヒーを買って行くんだけれど、
袋に入れようとすると「シールでいい。」と言う人だった。こっちも心得たもので、
それを言われてからは袋に入れずシールを貼っていた。

ある時、お兄ちゃんは缶コーヒーを二本持ってきた。「めずらしいな」と思いながら、さすがに
袋に入れようと袋を出したら、「シールでいい。」とお兄ちゃんは言った。
二本目の缶コーヒーにシールを貼ろうとしたら、「そっちはいい。」とお兄ちゃんは言った。
続けて、

「それ飲んで。おつかれ。」

とお兄ちゃん。

「ありがとうございます!気を付けてください。」

と、僕はお兄ちゃんの背中に言った。

 次のバイトの時、僕はいつもお兄ちゃんが買う缶コーヒーを二本買っておいた。お兄ちゃんが
レジに二本缶コーヒーを持ってきた時、

「これ、飲んでください。お疲れ様です。」

と、シールの貼ってある缶コーヒーを渡した。

「もう絶対、気ぃ使うなよ。これはありがとう。」

 それからは、お兄ちゃんが入ってくると「お疲れ様っすー。」「おぅ、お疲れ」。
そして、二本の缶コーヒー。

34 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/24(土) 01:19:30
Vol.32
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 レジから雑誌コーナーが見えるように、雑誌コーナーの角には球形のミラーがぶら下がって
いる。ある夜いつものようにレポートを書いていると、派手な格好の女性が入って来た。

 「いらっしゃいませー。」女性はそのまま女性誌コーナーへ。しばらくして、見るともなしに
 ミラーへ目をやると、女性はしゃがみこんで雑誌を読んでいる。
 またしばらくしてミラーへ目をやると、姿勢は変わらないけれど、女性はミラー越しに
レジの方を見ている。
 何回ミラーへ目をやったか覚えていないけれど、ミラーを見るたびに、女性はやっぱり
レジの方を見ている。

 なんか気味悪くて、レポートを書くフリをしながら女性の動向を見ていた。ミラー越しに目が
合っていた、んだと思う、目が合ったまま時間が過ぎた。

 女性は立ち上がって、ビールとかお菓子とかをカゴに突っ込んでレジにドンッと置いた。

「いっ、いらっしゃいませ。」

の言葉の後、ビクビクしながらバーコードを読み込ませる僕。いつもと同じなんだろうけれど、
バーコードの読取精度が悪い。

「紙ある?」
「へっ?」
「書くものある!?」
「はっ、はい!」

と言って、ボールペンとレポート用紙を一枚差し出す。女性はカウンターで何かを書き始める。

「ほにゃらら円です・・・。」

と告げる。彼女は紙を差し出して僕に言った。

「あなた達ここ、私ここ、待ってるから。」

そう言うと、女性は袋を持って出て行った。「おっ、お勘定・・・。」というのは僕の心の中の言葉。

 言っていた事と、紙に地図が書かれている事は分かったのだけれど、状況が全く分からないし、
怖いし、地図は全くアバウトだし、「私ここ」の「私」が誰なのか分からないと「ここ」が特定出来ない
だろうし、でも、悶々としながら朝を迎えた。

 やっぱり僕は大学へ行く事にした。

35 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/24(土) 01:21:40
Vol.33
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 ある時、黒人の二人組が入って来た事がある。全てにおいて自分よりデカイ二人組。
店内を、徘徊するかのようにウロウロ、こっちをキョロキョロ。「うぁ〜、嫌だなぁ」と思っていた。
レジ横のショーケースの前でもウロウロキョロキョロ。もう本当、怖いっすよ。

 片方がレジの前へ来て「チキン」と言った。えぇ、僕は今モーレツにチキンですよ。とりあえず
首をかしげながらはにかんでみた。

 相方もレジの前へやって来る。「チキン、チキン」と連呼する彼ら。

 「あっ、鶏が欲しいのか?」と理解し、ショーケースを指差しながら「チキン、チキン」と言う僕。
ちゃんと会計を済まして、レジの前でほおばる彼ら。

「オー、チキン。オー、チキン。」

 僕はやっぱりはにかんでいた。

36 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/24(土) 01:22:13
Vol.34
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 コンビニエンスストアのバイトは素晴らしくて、シフトに入っていない時も顔を出して、
廃棄の弁当をもらっていた。食べる事に困らなくなったけれど、これによって、体重増加に
拍車がかかった。

 素晴らしかったんだけれど、寝ないで長時間の実験へ行くのがやっぱりキツくて、切りの
良い所でバイトを辞めた。ちなみにこの間も、週末のバイトは続けていた。

37 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/24(土) 01:23:42
Vol.35
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 ある友達が、彼女に英文のレポートを頼んでいて、それをこれから取りに行くから付き合って、
と言う。日頃いろいろとお世話になっているし、暇だしって事で付き合った。

 夜の高速を車が飛ばす。

 お洒落なマンションのエントランスでインターホンを押す彼。「今開けるね。」という声と同時に
自動ドアが開く。彼の彼女の部屋の前でインターホンを押す彼。扉の向こうからパタパタと
小走りの音。

ガチャッ

と扉が開き、キャミソールと短パンのかわいい女性が出てきた。

「あっ、一人じゃないんだ。」
(はい、すみません。今晩のおかずをいただきました。)

 彼は本当にレポートを受け取って帰るだけだった。自分が付き合わされた理由も分かった。

 僕にはこんな事出来ない。いや、僕にはそんなシチュエーション、あり得ない。

38 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/24(土) 01:24:40
Vol.36
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 週末のバイト先に、頭の良いかわいい女の子が入って来た。一言で言うと“凛とした”感じの
女の子。高嶺の花のような人だった。厳しいご両親で、お酒を飲みに行ったりカラオケへ
行くのも、原則禁止だった。

 自然と好きになった。バイトをしている時は頼られるから、気分が良かった。

 ある時、彼女をむりやり連れてみんなで飲みに行った事がある。彼女はひどく酔って
しまったから、肩を貸して家まで送り届けた。すごい形相のお父さんが、むしり取るように
彼女を僕から離して、家の中へ消えていった。

39 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/24(土) 01:25:28
Vol.37
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「なんでそんなに私の事、良くしてくれるんですか?」

という言葉に

「バイト先のかわいい後輩だからだよ。」

と答えた。

 彼女は確実に、僕の気持ちに気付いていたと思う。でも、「好きだから」と言っても玉砕する
事は分かっていたし、その言葉を言わなければ、ずっと彼女と話をしていられると思った。

 お父さんに言われたからなのか、彼女の辞める理由は、歯切れの悪いものだった。

 平日は大学、週末はバイト。この繰り返しが、しばらく続いた。

40 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/24(土) 01:32:58
 失敗です。「やっぱり、あと三通の手紙があれば、ぼくたちはむすばれたのだろうか」
と書いた後に、「一部 彼女と出会うまで」と書きたかったのです。

 上記Vol.37までが、

一部 〜彼女と出会うまで〜

です。

 三通の手紙は四部構成になっています。二部はちょっと特別で、三章構成になっています。

 二部第一章の開始は、2/26の予定です。


 ちなみに、「三通の手紙」は実話です。だから、セピア板だったら、書いても良いですよね。
写真ではなく、文章という形ですが。

41 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/26(月) 01:17:38
二部 〜彼女と別れるまで〜

42 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/26(月) 01:18:52
Vol.38
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 バイト先に、年下のかわいい女の子が入って来た。専門学校の二年生だった。その子の
バイト初日、その子と一緒にレジに入っていた後輩が興奮気味に僕に告げた。

「ohlさん聞いてくださいよ。今日入った子、ブルッてますよ。」

 「ぶるってます」の意味が理解出来ず聞き返すと、

「彼女、ポケベルを持ってるんすよ。時々ブーンって音がして、ちらっとみて、って感じっす。」

 なるほど、ポケベルか。存在は知っていたけれど持っていなくて、勿論、必要もなかった。
確実に自分とは違う環境に身を置いている彼女だった。「そりゃ、かわいい子はポケベルくらい
持っているんだろうな」と、ちょっとひがんだかも知れない。

43 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/26(月) 01:19:28
Vol.39
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 かわいいのに、という表現はおかしいかも知れないけれど、かわいいのに、とても気さくで
人懐っこい子で、バイトで会うたびに好きになっていった。一緒にレジに入る時は、自分が今、
そんな店員がいる店に入ったら怒ってしまうんじゃないか、というくらい、会話をした。僕の方が
三つ年上だしバイトのキャリアもあるし、多方面の会話でかなり頼りにされた。

 週に一回しか会えないんだけれど、バイトがとても楽しくなった。

44 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/26(月) 01:20:18
Vol.40
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 高校時代のそれじゃないけれど、レジが一緒じゃない時とか、休憩時間に入る時とか、
トイレへ行く時とかに、小さなメモを渡してくるようになった。元々僕は手紙とか、書くことが
好きだったから、快く僕もメモを返していた。
 バイトの事とか学校の事とか友達の事とか、そんな他愛のない内容達だった。メモの量に
比例して、彼女に対する僕の気持ちは強くなっていった。

45 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/26(月) 01:21:23
Vol.41
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 ポケベルを買った。入力表をみながら、限られた字数の中で伝えたいことを伝えるのは、
楽しいことだった。普段は大学だから(一人暮らしだから)全く会えないけれど、それを
補うかのようにメッセージのやりとりをした。

 行き交うメッセージは「オハヨー」とか「オヤスミナサイ」とか、これもまた他愛のないもの
だったけれど、明らかにビジネス用の色気無い黒いポケベルは、僕と彼女をつなぐ
素晴らしいものだった。

 携帯電話がまだトランシーバーのようだった、生み出される歌の中には「公衆電話」が
登場する頃。僕は、公衆電話の場所に詳しくなった。

46 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/26(月) 01:22:10
Vol.42
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 金銭的に一人暮らしをする余裕が無くなって、実家から大学へ通う事にした。余裕が無くて、
とは言っても、奨学金はことごとく「学」以外に使い、バイトも、金額ではなく楽しさを優先して
いた上での「余裕が無い」だった。

 実家から大学までは片道三時間。一日で文庫が読めてしまう通学時間だった。そして、
僕は乗り継ぎ駅の公衆電話達と仲良くなった。

47 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/26(月) 01:23:32
Vol.43
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 バイトのシフトを増やした。土日も含めてほぼ毎日入れていた。彼女のシフトの日は全て
入っていた。いや、入れていた。

 通学距離にやられてしまって大学へ行かない日は、映画やカラオケの後、バイトへ行って
いた。実験のように、確実に出席しないとダメな単位以外は、一つ、また一つと、出席しなく
なっていった。

48 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/26(月) 01:24:17
Vol.44
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 手紙を書こうと思い立った。メモじゃなくて。

 その日、大学とは逆方向の電車に乗って、ある街に降り立つ。以前から目をつけていた
喫茶店へ入る。そこは、お気に入りでとっておきの喫茶店のように、床がきしんだり
机がガタガタいう喫茶店じゃなくて、犬を連れた女性が小指を立てて紅茶を飲むような、
そんな喫茶店だった。

 等身大で手紙を書くのならいつもの喫茶店でよいのに、しゃれた店で手紙は書こうなんて思って、
その店を選んだ。

49 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/26(月) 01:25:04
Vol.45
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 コーヒーだけはいつものを頼んで、机に便箋を広げる。封筒もペンも便箋も、新調したやつだ。
しばらくしてコーヒーが運ばれてくる。そのコーヒーカップはとても小さかった。

 「ほぅ、高級そうじゃないか」香りをかぐ。「いいにおいじゃん」口に運ぶ。「う〜ん、うまい」
実際、あんまりこの辺は分かっていなかったと思う。だって、今でもあまり分からないから。

 「今、喫茶店でこの手紙を書いています。」という書き出しで、いまさらの自己紹介と、
これからもよろしく、のような内容の手紙を書いた。書き終わって封筒にしまって、
封筒に「Vol.1」と書いた。

 そろそろバイトの時間なので、とレジへ向かう。

「1,000円になります。」

「はい!?」とは僕の心の声。かろうじて涼しい顔で支払いは済ませたけれど、その日、ヨシギュウを
食べる事は出来なかった。

 手紙を受け取った彼女は、とてもうれしそうな顔をした。その喫茶店へは、二度と行かなかった。

50 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/27(火) 00:25:11
Vol.46
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 お気に入りの喫茶店へ招待した。マスターは「おっ!?」なんて顔をして、僕には「いつもの?」、
彼女には、やさしい顔で「いらっしゃいませ。」と言った。
 自分にとってこの場所がどれだけ特別なのか、そして日常なのかを話した。彼女はニコニコ
しながら、僕の話を聞いていてくれた。

 彼女もここを気に入ってくれたらしく、バイトの前にここで会うのが、僕らの常になった。

 たまに、彼女との待ち合わせの数時間前に店に入って、手紙を書いた。手紙のナンバーは
増えて行った。この頃の僕たちの会話には、彼女の「就職」という文字がチラホラと登場し始めていた。

51 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/27(火) 00:25:43
Vol.47
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 二人で映画を観に行くことが何度かあった。バイト先で会うのは「オフィシャル」で、
プライベートの部分でもかなりの時間を、僕たちは共有していた。
 積み重なっていく僕たちの時間に応じて、僕の気持ちと僕の勘違いは、大きくなっていった。

52 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/27(火) 00:26:48
Vol.48
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 いつもと違う状況で手紙を書きたいと思って、海へ向かった。

 駅に降り立ち、500mlのペットボトルを買った。コーラではなかった。海まではタバコ二本分の距離。
到着した時にはペットボトルは空で、僕は汗だくだった。暑い季節ではなかった。

 砂浜に座り込んで一服。風が結構あった。平日昼間の砂浜は、人よりも動物の方が多い。
そんなところで、クマみたいなブタみたいな男は、背中を丸めて自分に酔って、彼女に手紙を書いていた。

53 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/27(火) 00:27:20
Vol.49
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 二人でカラオケへ行くことが多かった。それなりに褒めてもらえる歌唱力を僕は持っていて、
彼女の唄声はかわいくて、せまい部屋に二人で、そんな時間はとても楽しいものだった。

 ある時、曲を選んでいる間に、ある女性アーティストの初期の曲が流れた。

「あーこの曲、初めてエッチした時に流れていた曲なんだ。」

かなづちで後頭部を殴られた気分。

「これ、唄っていい?」
「いいよ・・・。」

 悲しいことに、とても良い曲。それからカラオケへ行くたびに、彼女はその曲を唄う。
みんなでカラオケへ行って彼女がその曲を唄う。その曲の秘密を知っているのは僕たち
だけなんだけど、そんな秘密、ちっともうれしくなかった。

54 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/27(火) 00:28:00
Vol.50
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 以前にも増して、就職関係の話が増えた。人生経験チックなこととか勉強のこととか
バイトのことだったら、彼女が「うんうん」とうなずく返答が出来ていたけれど、自分が経験
していない事についての会話は、「う〜ん」と彼女がうなってしまうことが多かった。

 僕は徐々に、焦り始めていた。

55 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/27(火) 00:29:11
Vol.51
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 ある日「今日バイトが終わったら時間もらえる?」と誘った。バイトの後に話をして帰るのは、
別に珍しくはない僕たちだった。

 バイトの後、よく使っている駅のそばの広場へ連れて行った。他愛のない会話を不自然に
さえぎって、

「気付いているかも知れないけれど、君のことが好きなんだ。」

と告げた。

今思えば、この「気付いているかも知れないけれど」という言葉は、なんとも男らしくない言葉だ。

「ごめん、ohlさんのことはお兄ちゃんみたいに思っているの。そういう風には、見てない。」

 彼女は気付いてなんかいなかった。ちょっとは脈アリとか思っていたのに。

 気まずくても、彼女を失いたくなかった。

「分かった。お兄ちゃんでいいから、今までみたいに付き合って。」

「うん」と彼女は、嬉しそうに言った。

 その後は、告げたことがまるで無かったように、僕たちは僕たちで、僕は彼女のことが好きだった。

56 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/02/27(火) 00:30:58
 二部第二章の開始は、3/7の予定です。

57 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/07(水) 00:22:41
Vol.52
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 学費をそれ以上払う目途が立たず、大学をやめる事にした。実際は「やめる」っていう
自発的なそれではなくて、除籍だったのだけれど。
 やめた後の事は特に考えていなかった。バイトを増やせばいいや、くらいに考えていた。

 やめる日、というか大学へ行かなくなる日は、学園祭の日に決めた。以前から彼女は、
大学の学園祭へ行ってみたいと言っていたから、彼女を一緒に連れて行くことにした。

 いつも一人で乗る電車に二人で乗って、自分が以前暮らしていた街に二人で降り立つ。
道々、「この公衆電話からベルを入れていたんだよ。」とか話をしながら、自分が暮らして
いたアパートまで連れて行った。表札は違う人の名前になっていた。

58 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/07(水) 00:23:51
Vol.53
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 大学のバスを待っている時とか、バスの中とか、周りの男子達がチラチラとこっちを見て
いた。女の子が珍しいというのもあるし、「あんな男にかわいい女の子が!?」みたいな
雰囲気が流れていた気がする。
 黙っていれば、僕たちにあったことなんか他人には分からないから、傍から見たら、
不釣合いの恋人同士に見えたのかな。

「この子がohlの好きな子か〜。」
「そうですよ〜。」

なんて会話を、彼女と友達がする。そう、好きな子なんだ、彼女じゃなくて。

 いろいろな所を見て、みんなでご飯を食べたりして、「じゃあ俺たち帰るね」という時、
軽音楽サークルに入っている友達が「芝生へ行こう。」と言い出した。その芝生は大学の
中心にある、なだらかな斜面になっている所で、僕達はそこで話をしたり時間を潰したり、
それなりの時間を過ごした、思い出の場所だった。

 芝生にみんな座って、友達がギターケースから、ギターと二つに折りたたまれたレポート用紙を
取り出す。

「ohlのために作ったんだ。」

と言って、彼はギターを弾きながら、僕のための歌を唄った。唄い終わって、そのレポート用紙を
僕に差し出す。最高のプレゼントだった。

 僕の大学生活は、こうやって終わった。

59 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/07(水) 00:25:59
Vol.54
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 大学をやめてバイトのシフトを増やした。確か、開店から閉店まで毎日、シフトを入れて
いたと思う。二人で映画やカラオケへ行くことはなくなったけれど、今までと同じ、バイトや
飲み会やカラオケの日々だった。

 彼女の就職が決まって、バイトを辞める日が決まった。

 手紙のナンバーは増えて行っていた。内容はずいぶんと女々しかったと思う。彼女が
バイトをやめたら僕たちはどうなるんだろう、と思って。

60 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/07(水) 00:26:52
Vol.55
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 「せっかくそれ系の学科へ行ったのだから、それ関係のバイトをしてみれば」という事で、
掛け持ちでやっているバイト先の会社を、後輩が紹介してくれた。昼は彼女に会えないから、
昼は別のバイトでもいいやと思っていたので、その会社へ面接に行ってみる事にした。
 大学卒として扱ってくれるという事で時給は1,000円。それまでのバイトはずっと変わらず
700円だったから、とても好条件だった。

 それから、昼は1,000円、夜は700円のバイトをする生活になった。「すげぇ稼げるじゃん」
って思っていた。夜は彼女に会えた。彼女の辞める日は、近づいていた。

61 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/07(水) 00:28:04
Vol.56
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 昼のバイト先から「大型プロジェクトが始まるから社員にならないか」と打診があった。
バイトとの掛け持ちはダメと言われた。数ヶ月後には彼女は社会人になる。彼女より先に
社会人になれるチャンスだった。彼女より先にバイトを辞められるのも何か格好良い、
と勘違いした。

 浪人時代から足かけ五年のバイトを辞めた。もうこのバイトに戻る事はなかった。

 給料+残業代になって、収入は今までにくらべて格段に良くなったのだけれど、奨学金の
返済とか学資ローンの返済とか実家へ入れる金とかスーツのローンの返済とかで、本当に
金が無かった。バスを使わないで一時間かけて家まで歩いて帰って、交通費の一部を
浮かしていた。

62 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/07(水) 00:28:45
Vol.57
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 彼女もバイトを辞め、社会人になった。以前ほどではないけれど、時間を見つけて会っていた。
収入から必要な金額を引いた後の残金のほとんどは、彼女との時間のために費やされた。

 しばらくして彼女に、同じ職場の彼ができた。とてもとても苦しかったけれど、彼との話も
含めて、彼女の話を聞いていた。
 彼の話を聞かされるたび、自分がお兄ちゃんでしかないんだってことを認識させられる。
でも、どうしようもないんだけど、やっぱり好きで、彼女と二人で過ごせるその時間は、
僕にとってかけがえの無いものだった。

63 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/07(水) 00:29:17
Vol.58
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 ある時、みんなで飲み会をやっている時の写真が出てきた。後ろから声をかけられて、
みんな振り向いてピースをしている写真。
 写真の中の、僕の首の部分には、すごい肉がたるんでいた。「これじゃぁ、ダメだよなぁ」と
思った。家にある体重計に久しぶりに乗ってみた。

 あと5キロで、0.1トンだった。

64 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/08(木) 00:15:42
Vol.59
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 ダイエットを決意した。

 朝はリンゴを一つか二つ、昼は野菜ジュース一本、夜はレバーともやしを油をほとんど
使わないで炒めたもの、という食生活。バスを使わない駅の往復は良い運動になった。

 この間、彼女とはあまり会わなかったのだけれど、会うたびに、「やせた!?」「やせたね!」
「見違えたね!」となっていった。

 三ヵ月後、体重計は65kgを指していた。

65 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/08(木) 00:16:40
Vol.60
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 ちなみにこのダイエット期間中、あるクライアント先に一人で常駐して作業をしていた。
あまりに極端なダイエットメニューだから、仕事中に集中力が持続しない。言われた事は
当然やるんだけれども、言われた事しかやらない、創造性も協調性も無い外注だった。

 一日で一番食べごたえのある楽しみなレバーもやし炒めが食べたいから、とにかく定時で
あがりたい。でもプロジェクトは、定時で帰る雰囲気なんかこれっぽっちも無い状態。
 外注は帰る時、担当の人からサインをもらわなければいけないのだけれど、この担当が
何かと作業を振ってきて、何かと作業時間を延ばしたがる人だった。まぁ、プロジェクトの
状況を考えればもっともな事で、これは僕の被害妄想が思わせる事だったのだけれども。

 僕としては、レバーもやし炒めを食べる事が最優先事項だったから、その担当者の下に
ついている社員さんをつかまえて、サインをもらっていた。
 そのうち、「帰る時は私にも声をかけてください」と言われてしまうようになった。しょうがない
から数回に一回、声をかけるようにした。

 ダメな外注にもいろいろな都合があるのです。

66 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/08(木) 00:17:43
Vol.61
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 それが全ての原因だと思い込んでいた僕は、身長-110の体重の体を手に入れて、意気揚々と
彼女に告白をした。

「ごめん、ohlさんのことはそういう風に見ることができない。」

 また、ふられた。

「好きだと思っていると思いながら、今までみたいに会うことはできる?」
「私は大丈夫。」
「じゃあ、俺は頑張る。」

 原因はそれではなく、つらい日々は、続くらしい。

67 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/08(木) 00:18:43
Vol.62
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 彼女はと言えば、彼と別れ、同窓会で再会したという友達と付き合い始めた。

 付き合う男によって、彼女の服装は変わる。短いスカートだったり、ジーンズだったり。
彼らは、短いスカートの彼女やジーンズの彼女だけを見たのだろうけれど、僕は、
短いスカートの彼女もジーンズの彼女も、あの頃の、彼女らしい服装も、全部見てきたんだ。

 いや、そうじゃないな。彼らは、僕が本当に見たい彼女を見ていたんだ。
僕だけが、見ることができていなかったんだ。

68 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/08(木) 00:20:08
Vol.63
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 「彼とデートだから何時に起こして」というお願いを、何度かされたことがある。とても
まぬけな話だ。
 でも、彼女が僕に求めてくれること全てが、僕と彼女をつなぎとめてくれるから、
朝弱い自分が、彼女のために目覚ましをかけて、眠い目をこすりながら彼女に電話をする。

 僕じゃない人のための、眠そうな彼女の声。

「ありがとう、今日はどこどこへ行くの。」
「そう。気をつけて行っておいで。」

 朝とても早い時間の指定だったり、「ありがとう。」だけで素っ気無く電話を切る日もあった。
僕は電話を切った後、他の男に抱かれている彼女を思い浮かべていた。

69 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/08(木) 00:20:58
Vol.64
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 もう、とても耐えられなくなっていた。お兄ちゃんじゃないもの。気が狂ってしまいそうだった。

 彼女に告げた。

「ごめん、もうお兄ちゃんでいられない。僕は、男なんだよ。」

「少し時間をください。」

という彼女の言葉には、もう何も期待していなかった。勘違いもしていなかった。

 でも、打算があった。最近彼とうまくいってないと聞いていた。一人になりそうな彼女の現状に、
お兄ちゃんもいなくなるんだっていう状況をぶつけたんだ。

70 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/08(木) 00:22:07
Vol.65
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 数日後、「逢いたい」と彼女から連絡があった。お互いの仕事の後、二度告白をした場所で
落ち合った。いつもの花壇に腰掛けて、僕たちは黙っていた。僕の頭は真っ白だった。

「彼と、別れたの。」

 その言葉の先はなかった。言葉の意味は分かったけれど、言葉が意味することは最初、
分からなかった。何度も何度も勘違いにやられてきてそれなりに育った思考回路をもってしても、
やっぱり勘違いとしか考えられない答えが、僕の頭の中に出た。

 意を決して、言った。

「僕と付き合ってください。」

 彼女は小さく「うん。」と言いながら、確かに、うなずいた。全身の毛が逆立つような感覚。
一度発せられたその言葉を、何度も何度も、自分の中で確かめた。

 話すことは何も無くて、いや、たくさんあったのだけれど何も話せなくて、「明日、デートしよっか。」
と言うのが精一杯だった。

 初めて彼女と手をつなぎ、何度も送って帰った道を「彼女」と歩いた。別れ際、彼女は言った。

「ほっとした。あなたを失いたくなかったの。」

71 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/08(木) 00:24:00
 二部第三章の開始は、3/14の予定です。

72 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/14(水) 02:10:45
Vol.66
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 翌日、僕たちが多くの時間を過ごした街でデートをした。僕は彼女を抱きたかった。

 夜だったらホテルのネオンが見える辺りで、僕は言った。

「ホテルへ行こう。」
「今日はダメだよ。」
「二人きりになれる所へ行きたいんだ。」
「今日、生理だから。」
「うん、二人きりになれる所に行きたいから。」
「私、お金無いよ。」
「大丈夫、俺が持ってる。」

 こんなかみ合わない会話の後、僕たちはホテルへ向かった。休憩二時間4,500円。財布には
5,000円札が入っている。大丈夫だ。

 部屋へ入り、ベッドに座る。そのうち、横になる。彼女と初めてのキスをした。

 どうしたって気持ちは盛り上がる。

「上、脱がしたい。」
「この状況で言うのは、ずるいよ。」

 彼女のブラウスを脱がして、下着をゆっくりとはずす。ぬくもりが、想像じゃないことを確かな
ものにする。僕も上半身裸になって、何度も何度も、キスをした。

 今日から僕たちには、僕が望んでいた全てのことが待っているんだ。

73 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/14(水) 02:11:27
Vol.67
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 「そろそろ出ようか。」どちらが言ったのかは覚えていない。恐らく彼女だ。

 フロントへ行く。

「5,250円です。」
「えっ!?4,500円でしょ!?」
「延長が入りましたから、5,250円です。」
「たしかに。」

 彼女は消えるような声で「私、お金無いよ・・・。」と。やくざが出てくるとかいろいろ考えながら
はたと気付く。「小銭があるじゃん!?」あった、5,250円は持っていた。やくざは出てこなかった。

「お時間も気にしてくださいね。」

というフロントの人の言葉は、やっぱり嫌味だったのかな。

74 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/14(水) 02:12:06
Vol.68
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 働いているんだけれど、本当に金が無い。「将来の自分に乾杯!」とか思いながら無駄に
使っていた奨学金や、どうにか払う事でそれ以上の価値に転換しようとしなかった
学資ローンが、自分に覆いかぶさっていた。

 朝は家で食べるんだけれど、仕事の拘束時間が長いから、昼と夜は外で食べる事になって、
どうしても出費が発生する。彼女とのデート代を確保するために、一日100円の生活が始まった。
 正確には食費が一日100円。タバコとかは買っていた。昼は食べず、夜は少しでもカロリーを
と思い、スナック菓子を食べていた。そして、家に帰ると冷蔵庫を漁る。

 徐々に体型は戻り始めていた。

75 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/14(水) 02:13:05
Vol.69
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 ある時、二人で映画を観に行った。人気のある映画で、最前列の席しか空いていなかった。
個人的には、映画館の大きさにもよるけれど、中段と後段の中間辺りの、左翼の中間辺りが
好みなのだけれども。

 映画中の、車の中での情事のシーンに、妙に興奮した。つないだ手は、彼女の太腿の上に
あった。その手を徐々に、下腹部の方へずらした。彼女は最初、足を閉じたんだけれど、
徐々に足がゆるんでいった。

 映画の内容は途中から覚えていない。男が海に沈んでいくシーンを観て、「あぁ、死んだんだ」と思った。

76 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/14(水) 02:13:43
Vol.70
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 映画館を出て、見た彼女は、何とも言えない表情をしていた。食事をして、いつものバス停
まで彼女を送る。ふと目が合った。トロンとした目、ってこれのことだろうな、と思った。

 そのまま誘えばよかったのだろうけれど、今日の予算は映画と食事で消えていた。

 バスは来て、彼女は乗って行った。僕は、いつもの道を歩いて帰った。

77 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/15(木) 10:35:05
Vol.71
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 久しぶりに、バイト時代のみんなで、飲んでカラオケをする事になった。もちろん、彼女も
出席だ。
 じゃあそろそろカラオケへ行こうかって時は、彼女の門限間近の時間だった。でも、彼女は
帰ろうとしない。

「バス、やばいだろ?送っていくから。」
「今日はいいの。泊まっていくから。」

 ・・・、財布にはカラオケ以上宿泊代未満の金しか入っていない。

「ごめん、金無いや・・・。」
「そう・・・、じゃあ、帰るよ。」

 後から合流したカラオケはとても盛り上がっていたけれど、僕はちっとも、盛り上がれなかった。

78 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/15(木) 10:35:42
Vol.72
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 みんなで飲んだ時、「今度は誰かの家で朝まで騒ごう」という話になっていた。

 その日、とても楽しく騒いで、でも朝までは持たなくて、3時頃にはみんなでザコ寝状態に
なった。僕の横にはもちろん、彼女だった。

 みんなの寝息が聞こえる中、僕は彼女の体に手を伸ばす。下腹部に到達するという刹那、
彼女が向こう側に寝返りをうつ。しばしためらった後、股の間に手を挿しいれた。
 足を固く閉じられたけれど、それでもと手をモゾモゾと動かしていたら、乱暴に手を払われた。

 酔いも高揚した気持ちも、冷めた。寝息がやけに、うるさかった。

79 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/15(木) 10:36:20
Vol.73
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 仕事が本当に忙しくて、彼女と会う時間は減っていった。デート代は電話代になって、
たまに逢っても、話が踊ることが少なくなっていた。

 そんな頃、僕がこんな言葉を言ったことがある。

「百通手紙を書いたら、結婚しようか。」

 彼女は言う。

「うん、それもいいかもね。」

 何度も出てくる「やっぱりお兄ちゃんなんだろうな」という自分の声には耳を貸さず、全てを
ゆだねてくれていると感じることができない代わりの何らかの約束が、ただ、欲しかったんだと
思う。知り合ってからの数年と、その間に生まれた手紙達は、確かなものだったから。

80 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/15(木) 10:36:52
Vol.74
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 抱きたかった。純粋に抱きたかったし、抱けば現状が変わると思っていた。でも、あの夜
以来そういう雰囲気は訪れず、僕たちはどんどんとよそよそしくなっていくし、ただ苛立ち
だけが募った。

 「俺を失いたくはないだろう」という驕りがあった。「抱けないなら、別れるしかない。」と彼女に告げた。

「もう、しょうがないよね。別れよう。」

という、期待外れの彼女の返事だった。勘違い野郎はまだ、僕の中にいたらしい。彼女の
言葉に何も返すことができなくて、僕たちは別れた。

81 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/15(木) 10:37:56
Vol.75
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 数日後、彼女を呼び出した。少し面倒くさそうな雰囲気をかもし出している彼女に、僕は言った。

「お兄ちゃんの状態で良いから付き合って。」

と、おかしな提案に対して、

「お兄ちゃんは、とてもうれしい。でももう、付き合うことは出来ない。」

と、まっとうな返答だった。お兄ちゃんで良いのなら付き合う必要は無い。ずっと、そうだったじゃないか。

 僕たちは、元の状態に戻った。

82 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/15(木) 10:38:43
Vol.76
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 相変わらず、いや、以前にも増して仕事が忙しかった。もう付き合っていないし、彼女は
新しい彼が出来て、彼は年上で、恋愛も悩み事の相談も何もかも彼が満足してくれるらしくて、
だんだんと疎遠になって、気付いたら、連絡を取らなくなっていた。

83 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/15(木) 10:40:15
 三部の開始は、3/21の予定です。

84 :大人になった名無しさん:2007/03/15(木) 13:28:24
やめて、sageでやって。

85 :大人になった名無しさん:2007/03/15(木) 14:02:27
いつも不思議に思うんだが、これ読んでる人いるの?

86 :大人になった名無しさん:2007/03/15(木) 17:49:58
ドッガン!!!!
結界師よ!出てこい!!
これを読め!これは「烏森をぶち壊せ!」というハガキだ!6400通も来た!!
これは「壊すのはやめてください」というハガキだ!これが「ぶち壊せ!」というハガキだ!!
やめてくれのハガキが400通!ぶち壊せのハガキが6000通!!中には「面白いからぶち壊してください!」とか
「壊してください!プレゼント何か送ってくれ!」などわけの分からんハガキが何通か入っていた!!
ギンコからの約束だ!5000通を超えた基準あたりからJTに依頼して烏森学園をぶち壊す。

ギンコさん!そんな大げさなことはよしなよ!!ぎゅっ!!あいててて!!化野先生!耳を引っ張るな!!
墨村さん、雪村さん、ギンコさんの発言は冗談(本当は冗談ではないという・・・・)ですよ。
もしかすると、ギンコがド━━━━━━(゚皿゚)9m━━━━━━ンをやったら・・・・怖いですね。
笑ゥせぇるすまんの二の舞となるからね。

87 :大人になった名無しさん:2007/03/16(金) 02:25:40
>>86
こち亀?
ロボット派出所の回にあったな、

88 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/21(水) 12:23:07
Vol.77
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 お互いのいくつかのところに「こうであって欲しいな」と不満を感じつつも、お互いがお互い
らしくいられる人と、結婚をした。仕事は相変わらず忙しいけれど、充実していて、幸せだと
感じる日々が流れていた。

 ある日、仕事中、ケータイに着信があった。知らない相手からの着信だと思ったら、
アドレス帳から削除した相手からの電話だった。彼女だった。


89 :大人になった名無しさん:2007/03/21(水) 12:24:31
Vol.78
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 「最近どーよ。」っていう、以前と変わらない口調での切り出しだった。「うん、少し前に
結婚したよ。」と返す。しばしの無言の後、「ふーん、そう・・・。」という言葉。
 仕事をやめてアルバイトをしていることとか近況とかを、簡単に聞いた。電話の時間は
短かった。後にして思うと、何だか怒っているような、そんな彼女の電話の切り方だった。


90 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/21(水) 12:26:48
Vol.79
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 二度目の、名前が表示される着信。「バイト疲れたよ。」なんて内容だった。「電話はまずいから。」
というのに、「いいでしょ、友達なんだし。やましいことないし。」と返す彼女。

 うん、そうだね。やましいことは、結局無かったね。きみにとって、今の僕と電話をすることが
やましいことではなくても、僕にとっては、君と電話をしていることが既にやましいことなんだ。
気持ちが動いてしまうのは、やましいことでしょ?


91 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/21(水) 12:27:55
Vol.80
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 それでも何度か電話で話をするうちに、僕の事務所と彼女のバイト先が比較的近いことが
分かる。

 その頃は、接待の席などで唄うくらいで、カラオケへ行く事もなくなっていた。

「カラオケへ行こうよ。あなたの唄声が、久しぶりにききたいの。」

 断る理由はたくさんあるけれど、断ることができなかった。

 待ち合わせの場所には、彼女が先に着いていた。少し疲れた感じの自分が愛した人は、
やっぱりとてもかわいかった。
 あの頃の曲達をあの頃の声で唄う僕たち。何も変わっていなかった。唯一変わっていると
言えば、僕の状況だけだった。久しぶりに会ったということもあって、僕たちはたくさんの話をした。

 別れ際、お互いに自然と、「またね。」という言葉が出た。

92 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/21(水) 12:30:00
Vol.81
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 以前程ではないけれど、僕たちは定期的に会うようになった。食事へ行ったり、ゲームを
したり、カラオケへ行ったり、バイトのグチを聞いたり、将来の不安を聞いたり、昔話をしたり。

 忙しい日々の中でのちょっとした罪悪感を感じつつのそれは、悪くはなかった。これはこれで
良いと思った。何より、好きな人とまた、時間を過ごせるわけだし。

93 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/21(水) 12:32:13
Vol.82
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ある時、食事が終わって、どちらから誘うとなしに、公園のベンチに僕たちは腰掛けた。
彼女は、思いつめたように黙っている。

「どうしたの?またバイトでつらいことあった?」
「私、不倫しているの。」

 「俺とのこの日々を不倫と形容するのなら、彼女は俺と同じ気持ちを、俺に対して持って
くれているんだ」すごく、嬉しかったんだ。でも、続く言葉が、それは間違いなんだと告げる。

「バイト先の人だから、何だかうまく別れられなくて。」

 そっか、いつもいつも、対象は僕じゃない、他の誰かなんだね。

 この日を境に、彼女の口から発せられる不倫相手との昔話や近況は、僕を苦しませ、
更に彼女への想いを募らせるものでしかなかった。

94 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/22(木) 10:01:08
Vol.83
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 不倫相手と別れたらしい。新しい人と、付き合い始めたらしい。「やっぱり不倫は良くない
よね。」という言葉に胸を刺されつつ、新しい人との近況報告や、不倫相手がまかなっていて
新しい人がまかなえない将来のこととかを聞かされていた。

 また、壊れればよいのでしょうか。

「俺たちが、いや、俺がダメになった理由、覚えてる?もうダメだよ、会わないことにしよう。」

95 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/22(木) 10:01:41
Vol.84
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 数日して着信があった。ケータイに表示される名前だけで、僕の心はこんなにもザワつくと
いうのに。何度か無視をした後、しかたなく電話をとった。つらくて苦しくて、何を聞いて何を
話したのか、覚えていない。でも、この言葉だけは覚えている。

「ねぇ、一晩、一緒にいようか。これは、不倫じゃないんだよ。」

96 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/22(木) 10:06:58
Vol.85
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 情けないことに、とても嬉しかった。

 まるで恋人同士のように予定を立てる、僕たち。夜景の見えるホテルと、夜景の見えるバーを
予約した。「楽しみだねー。」という彼女の言葉に僕は、何かが壊れていく音と、何かが生まれる音を聞いた。

 その日が三週間後くらいになった頃、どうしても確かめたいことがあって、彼女に聞いた。

「あのさ、その日。その、大丈夫なんだろうか。」

 しばしの沈黙の後、あきれたような声で笑いながら、彼女は答えた。

「大丈夫だからOKなんだよ。」

 ほんと、なさけない。

97 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/22(木) 10:07:46
Vol.86
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 その日が二週間後くらいになった頃、僕は友人達と、女の子がいっぱいいる店で騒いでいた。
恐らく再開してからは初めての、12時過ぎの、彼女からの電話。

「仕事お疲れちゃーん。」
「あっ、今日はみんなで飲んでいるんだ。」
「ふーん、どこで?」
「事務所のそば。今はお姉ちゃんのお店だよ。」
「・・・。誰かと会うならさ、私と逢えばいいのに。」

 もう、僕の中で、いろいろなものが確定して行った。

98 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/22(木) 10:28:42
Vol.87
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 その日が一週間後になった時、僕たちは逢った。その日が来ることの合意を確かめるように。

「来週だね。」
「そうだね。」
「本当なのかな。」
「ん?」
「いや、なんでもないよ。」

「ねぇ、だっこして。」

おそるおそる、抱きしめた。

「ね、嘘じゃないんだよ。」

99 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/22(木) 10:29:38
 三部の開始は、3/28の予定です。

100 :大人になった名無しさん:2007/03/22(木) 11:39:27
あのさ、こんだけ書いてるのに感想すら書かれないのは誰もおまいの文章に興味がないわけなんだよ。
んで、ここは掲示板なんだよ。
誰もが自分の意見だったり主張を自由にしていいかわりに、第三者が見て興味をそそられる物を提供しなきゃいけないんだよ。
二月末から書いてるみたいだけど、その間に感想書かれてないじゃん。
つまり、おまいの文章は誰も興味ないわけ。
だからおまいはここにはカキコミしないで自分のブログがホムペで発表しなよ。このスレが存在するだけで『もっと楽しいかもしれないスレ』が立ち上がらないから。
そんだけ。

101 :ohl ◆0n7FWv/c5g :2007/03/23(金) 00:20:26
>>100
 書き込みありがとうございます。すごいうれしかったです。「おまい」って表現にも、ちょっと愛を
感じてしまったりしました。

 言われて思ったのは、書いてるだけで意見や主張をしないから、みなさん感想も何も書いて
くれないのでしょうか。

 ずっと胸にあった思い出を、知り合いの一言がきっかけで、文章にしてみたんです。
この書き込みの何かが、誰かとそれと似通っていたり共感出来るような事だったら良いな、
と思っているのですが、全くかすりもしないのですかね。

102 :大人になった名無しさん:2007/03/23(金) 23:03:28
はあ……。わかってもらえてないみたいだね。あんまりカキコミしてると俺もあんたと同類だと思われるからもうカキコミしないけど、誰も感想書いてない事実を考えて自己満足の表現の垂れ流しはやめなってことを言いたいだけだよ。

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